Prat_2 -3 20260301
ナイフが夕示の肌に接触し、さらに奥に向かっていくまさにその時だった。二人の間に第三者が割って入る。その人はナイフを握る女の手首を捕まえるのと同時に白幸(シトミ)を後方に蹴り飛ばした。白幸はここで“虚象”が切れ、視界が復活した。“虚象”を「創る」ための集中力の維持が限界に達したのだ。第三者が女の顔に当身をいれつつ小手返をかけるのを白幸は空中で見た。
「怪我は?」
河川敷で大の字になった白幸に姉の声がかかった。白幸が起き上がると、姉、瑛美(エミ)は白幸を襲った女に手錠をかけている最中だった。女はうつ伏せになっており、呆然とした表情を浮かべている。どうやら蹴り飛ばされて地面に叩きつけられた間に瑛美は女を拘束したようだ。
「だいじょうぶ」
“虚象”が解けた後の不快感で頭がぐらぐらするが、それは些事に過ぎない。さらに足首の方にも手錠をかけながら姉は話してきた。
「慈善活動じゃないんだろ?」
「え、怒らないの?」
「勝手にしな、先帰るから」
そう言い捨てると瑛美は奪ったナイフを捨てて立ち去った。
白幸は気の抜けた顔をした女の頬をバチンと打ってから言った。
「名前は?」
女は黙ったままだった。白幸は苛ついて顔を蹴った。
「名前は?」
「……木又メル」
木又は白幸を睨みつけながら言った。白幸は姉が落としたナイフを手に取り口を開いた。
「メル、『約束』」
木又の眉がピクッと上がる。この世界には「約束」を必ず実行するというルールが“虚象”を通じて存在する。ただし、対象は“虚象”を使う者同士のみだ。
「『お前は俺に攻撃しない。あと、俺に協力する』。断んならここで殺す。」
「人形よりひどいじゃん……」
木又は奥歯を嚙み締めた。白幸は何を言っているのか分からなかった。
「人形? 『約束』って具体的じゃないとダメになるんだよな? 『協力ってのは、殺したい奴らを殺すのを手伝え』」