前文<前編>
こんにちは。今日は前文を書きます。
「ホールさん、ドリンクオーダーお願いしますッ!」
来店客の注文を通した女子店員の呼びかけが軽やかに響き渡る。マイクを通しているため、かなり音量は大きい。
「ハイヨッ! ドリンクオッケーですッ!」
皿の片付けを中断し、俺は小走りでドリンクを作るためドリンクサーバーに向かった。
リリリ、カシュ!
機械からオーダー用紙が出てきた。電車の切符ほどの小さい白い紙で、これに注文が印字されている。「44番様43番様、レモンサワー1つ……」。かがんでタンブラーを冷蔵庫から取り出しレモンサワーを作り始めた。最後に炭酸水を入れるためにドリンクサーバーの口をタンブラーにあてた。勢いがよく炭酸水が流れ出し泡が弾けていく。あれ? 手がひやっとする。
(やべ、こぼしちゃった)
失敗である。
俺は春休みが少し経ったころから回転寿司店でホールスタッフのバイトをしていた。給料はかなり良い。まぁ、うん。
「19番様に生ダブルオッケー!」「ホールさん、Bレーンに湯呑、お願いしますッ!」「ご来店いただきありがとうございましたッ!」「シャリ部さん、汁物オーダー通しました!」「お客様ご案内しますッ!」「35番様にクイック(提供の意)!」「ボックス、ホールバックオッケーッです!」「ハイヨッ! いらっしゃいませーッ!」「ホールさん、36番様お会計お願いしますッ!」「ダスターお願いしますッ!」「お待たせいたしましたッ! 番号札201番でお待ちのお客様! ご案内いたします!」
店内はかなり活気がある。店員が一丸となって大きな声を出して来店客を接客、または店員同士で情報のやり取りをするからだ。そういうコンセプトなのである。また、店内が広く、来店客の案内、注文の確認、寿司はもちろんドリンクや汁物の提供、来店客の注文したお皿の枚数のカウント、レジなどと業務も多々ある。
ここまで読んだ読者の皆さんのなかで、俺を知っている人は少し驚くかもしれない。もしかしたら、俺のキャラとやっていることの差に違和感を感じているだろう。俺も、そう思う。そこで何故こうなったか説明しよう。
あれは2月の中旬のころだった。接客に向いていないと悟った俺は焼き肉屋のバイトを辞め、新たなバイトを探していた。バイトルにて、「モクモクと裏方で調理! 接客なし!」という内容の求人を発見。「時料高くね!? しかも接客なしだし! お寿司も好き~!」という風に、青い帽子をかぶり陽気な歌にあわせて踊る猫のような心持だった。「ヘイヘイユーユー」。後日「ハッピーハッピーハッピー、ハピハピハッピー!」と歌いながら俺は面接に出向いた。店長は「ヤギ」だった。
「求人ページには調理って書いてあるんだけど、最初の2か月は研修ってことでホールやらせてるんだ。それでも良いよね?」
「Huh~?」
という次第だ。それ以来声を張り上げ、チピチピチャパチャパルビルビラバラバとホールの仕事をしていたのだ。まあ、焼き肉屋のホールよりかははるかに接客が楽だったのだが。面接の時に辞退すれば良かったのに~。当時の俺は金欠で、もともと応募していた別の求人から返事がなかったため焦っていた。不甲斐ない。
春休みの数日前。
他の店員さんと外国人のお客さんが話している。店員さんは英語に戸惑っているようだ。「Go outside this restaurant and turn right」。俺はヘルプにいき、店外にしかないトイレの場所をそのお客さんに教えた。「君凄いね」とその店員さんは褒めてくれた。直に嬉しい。俺はお客さんや店員さんと話すときに「え、えと」と言い淀んでしまったり、噛んでしまったり、”あ”を連発してしまったりなどと接客、ひいてはコミュニケーションに自信がなかった。また、その他の業務も容量が悪く、仕事を覚えるのも遅かった。ついでにミスも多かったと思う。ま、無論”慣れ”も重要であるのだがだがだが。そのなかで英語が周りの人”より”は出来たのでそこは誇りに思っていた。英語が出来るとだんだんと認知され、助けを呼ばれることもあった。「阿部さん、あそこの外国人のお客さんの対応をお願いします」と言われると口角が上がった。自分の拙い英語力を振りかざして。「ま、最下位と言えど『旧七帝』だし~」。
ところで、とつぜんですが皆さんはアニメ『葬送のフリーレン』を知っていますか? 勇者たちと共に魔王を斃した魔法使いのエルフが主人公のファンタジーまたはヒューマンドラマです。面白いですよ! さて、僕は「七崩賢」と「旧七帝」が似ていると思います! 「七崩賢」とは魔王直属の幹部です。長期間にわたって存在し続け実力があり、数が7という共通点があります! 「七崩賢」に比肩する魔族も登場しますが、東工大や一橋、早慶なども「旧七帝」のライバルですよね。これも共通点ではないでしょうか? ということは、北大はアウラ!?
え、似てないって?
その日はなぜか外国人の多い日だった。外国人観光客にトイレの案内、注文方法の案内などをしていた。時刻は回って19時。疲れが溜まってくるころだ。制服に三角巾がついているため、頭も蒸れてくる。「こちらの伝票をもってレジの方までお願いします。ご来店いただきありがとうございました!」。お皿の枚数を数え終え、頭を下げて伝票を渡す。女子二人連れの席だった。「ホールさん、ご案内お願いします!」。「ハイヨ!」と返事をして俺はすぐに急ぎ足で出入り口の方へ向かった。
(左の人、雰囲気もあいまって可愛らしかったな。母のと似た、先のやや尖った鼻……、あれ? (注:マザコンではないですよ~))
Aちゃん(注:仮称とする)ではないか? という考えが脳裏に浮かんだ。レジ付近でもう一度盗み見する。やっぱりそうだ!
Aちゃんと出会ったのは1年生の時に英語の授業でペアワークをした時だ(ああ、留年したから今も1年か…)。
少し話は脱線する。皆さんは「共感覚」をご存じでしょうか。文字に色を感じたり、音に色を感じたりなど、1つの刺激に対し複数の感覚を持つ人が一定数存在します。調べた限りはその割合はよく分からないです。もしかすると、この文章を読んでいる人の中にも「共感覚」を持つ人がいるかもしれないでしょう。ここでわざわざ説明するということは、もちろん私もそれを持っているということです。文字に色を感じます。文字に明確に色がついているように見える人もいると、心理学系の講義で習いましたが、私は文字に色のイメージを感じるという程度に留まっています。文字により見え方の程度に差がありますが……。
皆さんにはもう少し脱線に付き合ってもらいたいです。さて、文字に色を感じるということは、人の名前にも色を感じるということです。名前の色のイメージから、人の色のイメージが決まることも頻繁に起こります。が、しかし、「彼女」のイメージは名前のイメージとは離れていました。名前を構成する漢字のイメージについて、姓からならば緑系統、名からならば紫系統のイメージになる筈でした。別のイメージが「共感覚」のイメージをを上回っていたのです――。
真向い。Aちゃんはころころと咲(わら)っている。
冴えた光が揺らいではぱっと弾けるようなオーラが漂っている。
膚をすうっと透過していくようだ。
曙の湖面。
中高時代にはとんと見なかったのだな。
嗚呼、これが――本物の陽キャか!
<To be contineud>
あ、なんか声が聞こえる。え、「キッショ」!?